空気が伝わる文章

|
先日、東京二期会の「ラ・ボエーム」を観ました。

第一線で活躍のキャスト陣に加え、演出は新国立劇場の芸術監督に就任予定の鵜山仁氏、そしてミラノ・スカラ座をはじめ世界各地で活躍中のロベルト・リッツィ・ブリニョーリの指揮と、見ごたえ聴きごたえのある舞台でした。

さてこの公演のプログラムでは、メインキャストのプロフィールの他にそれぞれの歌手を良く知る方からの紹介文も添えられていました。執筆は音楽以外の分野で活躍している方が多く、歌手との出会いや舞台ではわからない普段の顔を語っており、興味深く眺めていました。
その中で「これはすごいな」という一文がありました。さらさらと目が文字を滑るかのように読み進められるその文章は、まるで絵画を眺めているような感覚に陥るのです。
少年時代の二人の思い出。共に過ごした時間を経てそれぞれの道を歩んでいく。幼い頃に二人が共有していた時間、その空気感がふわっと暖かく伝わってくる。そして読み手の周りにもその温もりが感じられる・・・良いドラマの回想シーンを味わっているような素敵な文章でした。
この文章の執筆者は幻冬舎の社長見城徹さん。有名人の暴露本の仕掛け人としてテレビで拝見したことがある方もいらっしゃると思います。私もその意表をついた視点にプロの技の凄さを感じていました。どちらかというと鋭いイメージだったのですが、このプログラムの文章を目にしたとき、それは全く感じられず、むしろ穏やかにさらりと語っていることに少し驚きました。
確かに週刊誌のゴシップネタとは違って幻冬舎の手掛ける有名人の著書は、個々人の人間性、ベースとなる素材を中心にすえているような気がします。本音を引き出し、汲み取るという作業は、鋭さだけでは成しえないのでしょうね。人間の大きさを感じずにはいられません。
見城さんは「書くことは素人だ」と自らを評しているそうですが、やはりプロです!