モーツァルトの食卓

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偉人の数だけ伝記もまた書かれているもの。音楽家も然りで、作曲家、演奏家、指揮者など多くの伝記、著書が出版されています。特にここ数年は偉大な作曲家のメモリアルイヤーが続いており、数多くの本が出版されています。
 
さて、今回は最近読んだ音楽関係の本の中でおすすめの一冊をご紹介します。
「モーツァルトの食卓」(関田淳子・著  朝日選書)
モーツァルトに関しては、彼の書簡を始めとして伝記や作品解説など多くの本が出版されています。それはやはり天才と言われるほどの超越した才能と、そこから生まれた作品の素晴らしさになによりも魅力があるからでしょう。
“天才でもそうでなくても、人間は食なくして生きてはいけない。”
この「モーツァルトの食卓」では小さな頃から人生を終えるまで、モーツァルトがどんな状況でどのようなものを食べてきたか、ということから彼の作曲家としての生涯を導いています。
病弱だったモーツァルト。天才と言われ、幼い頃から何年も続く旅生活では大変な苦労をしたというのはよく知られたことで、生涯の約3分の一は旅生活だったとか。その苦労がいかばかりのものだったか・・・この点を食からさぐっていくと、単純に音楽家としての苦労以前に、まず何かを食べて生きていくかという、人間としての苦労や努力も浮き彫りになり、さらにはその食事風景からは父レオポルトとの関係も見えてきます。
また身分によって口にすることの出来るものも大きく異なっていた時代。宮廷で演奏するモーツァルト一家はその晩餐を見ることはできても食することはできなかった・・・など、そこからは行く先々での音楽家の扱われ方もまた見えてきます。
 
“音楽家”という職業面から書かれる伝記とは違った人物像を味わえるのが何よりも新鮮です。一人の人間としてのモーツァルトが見えて来る。それはこれまで様々読んで感じてきたモーツァルト像とは少し異なるもので、何と言ったらいいのか・・・単純に言ってしまうと天才とはいえやはり自分と同じ生命体だったのだなぁと、なんともおかしな感想が頭に浮かんでしまったりもするし、食料に不足し病と闘い、晩年は金銭的にも苦労しながらしかし素晴らしい音楽を残したモーツァルトが愛おしくも感じられるのです。
 
旅先で出会った食べ物、食文化。また故郷をなつかしく感じる味、食材。現代以上にその驚きや懐かしさというものは深いものがあったことでしょう。
“味覚”からさぐる人間モーツアルトと彼の生きた18世紀の食文化が書かれた一冊、モーツァルトに関心のある方はもちろん、食に興味のある方、18世紀の文化に興味のある方にもオススメです。