「山路を登りながら、かう考えた。~」
ご存知、夏目漱石「草枕」の冒頭。
これに続く文章のリズム感は本当にすばらしく、気持ちがいい。
しかしその少し先の文章が心に響きます。
「~越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、くつろげて、つかのまの命を、つかのまでも住みよくせねばならぬ。ここに詩人といふ天職ができて、ここに画家という使命がくだる。あらゆる芸術の士は、人の世をのどかにし、人の心をゆたかにするが故に尊い。~」
物語の中の一文とはいえ、その中に芸術とは?とその存在を再確認できたようで、
音楽を生業とする身としてはどこか勇気をもらったような気さえするのです。
昨年3月11日の震災直後。
報道され続けた被災地の様子がとても現実とは受け入れ難く、言葉を失う日々・・・
数日してようやく、いつも聞いているラジオ番組で久しぶりに音楽が流れた。
その時、“音楽を聴く”ということがこんなにも“生きている”ことを実感させてくれるものなのかと、
はっとしたのを覚えています。
滞っていた何かが流れ始めたような、
あるいは乾ききった体に何か温かいものが浸透していったような・・・
音楽や芸術は人間にとって必要なものなのだと、
これはきれいごとではなく本当にそうなのだと確信した瞬間でもありました。
残念なことに芸術の存在価値を否定するような政策が断行されている現実もあります。
情操教育を謳いながら、しかし音楽の置かれている環境は厳しいものがあるのです。
音楽があたりまえのように日常に溢れているせいもあるのでしょうが、
“芸術は人の心を豊かにするがゆえに尊い”とすれば、それはもっと大切に感じていきたいと思うのです。
どこかの自治体では音楽への予算がカットされそうになっているとか。
鶏が先か卵が先か、ではないけれど・・・・
人間あってのこの社会、そして未来の日本。