piccola: 2012年1月アーカイブ

 

「山路を登りながら、かう考えた。~」
 
ご存知、夏目漱石「草枕」の冒頭。
これに続く文章のリズム感は本当にすばらしく、気持ちがいい。
しかしその少し先の文章が心に響きます。
 
「~越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、くつろげて、つかのまの命を、つかのまでも住みよくせねばならぬ。ここに詩人といふ天職ができて、ここに画家という使命がくだる。あらゆる芸術の士は、人の世をのどかにし、人の心をゆたかにするが故に尊い。~」
 
物語の中の一文とはいえ、その中に芸術とは?とその存在を再確認できたようで、
音楽を生業とする身としてはどこか勇気をもらったような気さえするのです。
 
昨年3月11日の震災直後。
報道され続けた被災地の様子がとても現実とは受け入れ難く、言葉を失う日々・・・
数日してようやく、いつも聞いているラジオ番組で久しぶりに音楽が流れた。
その時、“音楽を聴く”ということがこんなにも“生きている”ことを実感させてくれるものなのかと、
はっとしたのを覚えています。
滞っていた何かが流れ始めたような、
あるいは乾ききった体に何か温かいものが浸透していったような・・・
音楽や芸術は人間にとって必要なものなのだと、
これはきれいごとではなく本当にそうなのだと確信した瞬間でもありました。
 
残念なことに芸術の存在価値を否定するような政策が断行されている現実もあります。
情操教育を謳いながら、しかし音楽の置かれている環境は厳しいものがあるのです。
音楽があたりまえのように日常に溢れているせいもあるのでしょうが、
“芸術は人の心を豊かにするがゆえに尊い”とすれば、それはもっと大切に感じていきたいと思うのです。
 
どこかの自治体では音楽への予算がカットされそうになっているとか。
 
鶏が先か卵が先か、ではないけれど・・・・
人間あってのこの社会、そして未来の日本。
 

 明けましておめでとうございます。

 いつも「晶子の小話」にお立ち寄り下さっている皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします!!

 
12月23日のオペラ公演「アマールと夜の訪問者」はおかげさまで無事に終了いたしました。
クリスマス寒波到来のニュースに“もし大荒れの天候になったら・・・”と心配しましたが、
当日は何とか私達に味方してくれたようで大きな交通機関の乱れも無く、
両公演ともに沢山のお客様にご来場いただくことができました。
足をお運び下さった皆様、また応援してくださった皆様、ありがとうございました!!
 
今回は昨年に引き続きフィギュアアートシアターFAT!Sの皆さんとの舞台づくり。
早い段階から共に稽古を積み重ねてきました。
3人の王様が印象深かった方も多いことでしょう。
ユニークな風貌の3人の王様人形が個性豊かに登場しました。
歌は歌い手が、それに合わせて人形が動く。
動きと歌が一体感を持って舞台で動き回ることは困難なうえに、
指揮者のいない舞台では動きのタイミングなどが更に難しい。
まさに二人三脚での役作りでした。
人間ならば自ら表情を作ることができるけれど、人形はすでに形作られた顔。
表情を作るのは手先の動きや顔の角度、体の動きなど、その細かな動作すべてにかかっているのです。
表情豊かで説得力のある王様たちの動作に、全く違和感無く共に演じることができました。
2011年の忘れられない思い出になったのは間違いありません。
FAT!Sの皆さんは、3人の王様人形や村人としての出演はもちろんのこと、
舞台セット、小道具、OHPや舞台転換など、客席からは見えないところでも携わってくれました。
ですから舞台裏にはいつもあらゆるポジションにFAT!Sの皆さんがいて、舞台を支えてくれていたのです。
 
稽古が進むにつれ次第に人形に色や装飾が付けられ、また様々な道具が増えていく。
舞台転換練習が積み重ねられ、やがて照明スタッフや衣裳スタッフ、オーケストラ、舞台監督など、
これに関わる多くの人たちの力が結集されて日毎に立体的になる・・・
まさにオペラが“総合芸術”といわれる所以を改めて実感しました。
 
そしてその大元には、常にポジティブで誰よりも元気ハツラツな演出家・沢則行さんの姿があるのでした。
そのエネルギーの強さ、
そして各キャストが描いている表現を広い視野で受け止めてくれる人間の深さのようなものが常に感じられ、
毎日の稽古がとても充実していました。
昨年最後の舞台が「アマールと夜の訪問者」というステキなオペラだったことはとても幸せなことでした!!
 
さて、今年もコンサートやオペラ公演など、
様々な音楽をクリエイティブにお届けできればと思っております。
札幌室内歌劇場をどうぞご贔屓に!!